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慢性腎不全について |
慢性腎不全の概念 慢性腎不全(CRF)とは、進行性の腎機能障害により、数ヶ月ないし数年以上にわたって持続的に腎予備能力が低下し、回復の可能性がない不可逆的な腎機能の低下のため、体液の恒常性が保てなくなり、多彩な症状を呈する症候群である。 慢性腎不全の定義 明確な定義はないが、一般的に糸球体濾過率(GFR)が正常の50%以下に低下した場合か、血清クレアチニン値(Scr)が2.0mg/dl以上を言うことが多い。 慢性腎不全の主な原因 原発性(糸球体の異常):慢性糸球体腎炎(IgA腎症、膜性増殖性腎炎など) 急速進行性糸球体腎炎(ANCA関連腎炎など) アルポート症候群 (間質、尿細管異常):間質性腎炎 多発性嚢胞腎 全身疾患に伴うもの :ループス腎炎 糖尿病性腎症 骨髄腫腎 アミロイドーシス 動脈硬化 :腎硬化症 腎動脈狭窄症 感染症 :慢性腎盂腎炎 急性腎不全からの移行
慢性腎不全の病期分類 慢性腎不全の病期分類として通常よく用いられるものにSeldinらの分類がある。(表1) 表1 慢性腎不全の病期分類
GFR:糸球体濾過率
慢性腎不全の病態生理(1)保存期慢性腎不全 進行性に腎臓が障害されると、@代謝性老廃物の排泄、A細胞外液組成の調節(水・電解質・酸塩基平衡の調節)、B細胞外液量の調節(血圧調節)(レニン産生、ナトリウム代謝)、C骨代謝調節(ビタミンD活性化、カルシウム・リン代謝、副甲状腺ホルモン:PTH)、D造血調節(エリスロポエチン産生)、E種々のホルモン代謝調節(インスリン分解など)などの機能が失われる。そのため、腎不全では生体の恒常性が維持できなくなる。破綻した腎臓機能が、全身臓器へ影響することにより多彩な病態を認める。 慢性腎不全の病態生理(2)尿毒症 尿毒症は、腎不全末期の患者に出現する臨床症状・所見を総称した症候群であり、精神・神経系、循環器、呼吸器、消化器、造血器、水、電解質、酸―塩基平衡などにさまざまな影響を及ぼす。 慢性腎不全の病態生理(3)透析患者の病態生理 透析患者の病態生理は、@尿毒症の病態、A透析治療では正常腎機能を代替できない病態、B透析 治療そのものにより惹起される病態、に分けられる。
慢性腎不全の治療 1. 原疾患の治療 (可能であれば) 2. 生活指導 適切な運動制限 3. 食事療法 高カロリー 低蛋白食 減塩 カリウム・リン制限(制限しない場合もある) 4. 降圧療法 降圧療法は保存期慢性腎不全患者の管理に最も重要なことの一つである。腎機能障害および尿タンパクは末期腎不全および心血管事故の独立した危険因子である。腎機能の悪化を抑制するためには血圧を十分に下げること、および尿タンパクを減少させることが重要である。レニン・アンジオテンシン系(RAS)抑制薬は尿タンパクを減少させ腎機能の悪化を抑制するとともに、心血管事故の発症も抑える。 腎機能や血清カリウム値の変化に注意しながら、RAS抑制薬と他剤を併用して充分な降圧を行うのが基本である。 目標血圧に関して日本高血圧学会のガイドラインでは原則として60歳未満では下記の値を推奨している。
蛋白尿1g/日以上:125/75 mmHg以下 蛋白尿1g/日未満:130/85 mmHg以下
各降圧薬の腎に対する作用と副作用を表にまとめた。(表2)
表2 各種降圧薬の特徴と副作用
5、薬物療法(降圧療法以外) (1) 蓄積物に対する薬物療法 窒素代謝産物 : 経口吸着剤 (球形吸着炭) 高尿酸血症 : 尿酸合成阻害薬 (アロプリノール) 高K血症 : イオン交換樹脂 高P血症 : P吸着剤 (塩酸セベラマー)、カルシウム製剤 アシドーシス : アルカリ化薬 (炭酸水素ナトリウム) 溢水 : 利尿薬 (2) 内分泌環境に対する治療 腎性貧血 : 遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン製剤 二次性副甲状腺機能亢進症 : 活性型ビタミンD製剤
慢性腎不全の薬物療法についての注意点 1、 腎排泄の薬は減量が必要になること 2、非ステロイド性消炎鎮痛薬は腎機能低下の大きな原因の1つであること(腎のPG抑制による) 3、 腎不全での禁忌薬もある
[参考文献] 標準腎臓病学 医学書院 慢性腎不全(新しい診断と治療のABC) 最新医学社 |