関節リウマチの病態と治療


【はじめに】
我国における慢性関節リウマチの患者は60〜70万人であり、40〜50歳代の女性に発症のピークがある。症状の悪化にともない, 日常生活動作(ADL)に障害をもたらすことから, 家族を含めての精神的,社会的問題,併せて国家の経済的損失も大きく,その対策は今や急務となっている。

【関節リウマチ(RA)の病態】
RAは多発する関節炎と進行性関節破壊を主症状とし,関節外症状として肺,腎臓,皮下組織などにも病巣が広がる慢性全身性炎症疾患である。病態的には未知の抗原が関節に達し, 抗原特異的な免疫応答が始まり, 血中より好中球, リンパ球, マクロファージなどが関節に集まり慢性炎症と滑膜増殖が起こる。その結果, 炎症性肉芽組織(パンヌス)由来の破骨細胞やプロテアーゼにより骨, 軟骨破壊が起こる。炎症症状は寛解と増悪を繰り返すが,初発症状としての炎症期の後で長期寛解に入る型,長年にわたり炎症寛解と増悪を繰り返す型,そして明確な寛解期がないままで炎症が持続する型などに区別される。病因は不明であるが, 遺伝的要因と微生物感染などの環境因子の両者が関与していると考えられている。

【RAの治療】
現在の医療では残念ながらRAを予防することも完治させることもできない。したがって, 治療目標は早期に診断し, 免疫異常を是正することを中心として, 疼痛の軽減, 関節破壊の抑制, 身体機能の維持を介して患者のQOL(生活の質)をできるだけ高いレベルに保つことである。RAの治療は患者教育,薬物療法,手術療法,リハビリテーションからなり, これらをバランスよく行うことが基本になる。

【RA治療の新戦略】
RAにより生じた高度の関節機能障害はADLばかりかQOL,時には生命予後にも重大な影響をもたらす。一旦生じた関節破壊は元には戻らず,関節機能障害は持続することから,「ゆっくりと徐々に治療法を強める」という従来の治療法から,最近のRAに対する治療戦略は,「早期に完全に寛解させる」治療法に転換してきている。関節破壊が生じる前に完全に寛解させるには,従来の疾患修飾性抗リウマチ薬では限界があり,メトトレキサート(MTX)を中心とする免疫抑制剤による治療を基本とし,治療に抵抗する場合には,生物学的製剤を併用する治療法が採用されている。また,こういった治療法は,関節破壊は発症2年以内が最も進行することから,発症早期より開始することが推奨されている。

【ステップ・ダウン治療方式】
これまでのステップ・アップ方式の弱点をカバーする目的で,2002年に米国リウマチ学会(ACR)から新しい治療ガイドラインが発表された。このACR治療ガイドラインは,ステップ・ダウン方式を基本としており, RAを早期診断し発症3ヵ月以内にMTXを中心とした強力な抗リウマチ薬(DMARD)で治療を開始しようとするものである。必要なら少量のステロイドや非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)を併用する。そして3ヵ月後に再評価し,治療が成功すればステロイドやNSAIDは漸減中止,無効であればDMARDの併用療法か生物学的製剤に変更する。このACR治療ガイドラインは現在,世界的に認知されRA治療戦略の主流になろうとしている。

〜メトトレキサート(リウマトレックス)〜
MTXは1988年アメリカにてRA治療薬として認可されて以来,RA治療の基本薬となっており, 日本でも1999年に認可され,他の抗リウマチ薬に無効な場合に使用が認められている。また,欧米では週平均17.5mgが使用されているが日本では週8mgに制限されている。MTXは従来の疾患修飾性抗リウマチ剤(DMARD)に比べ有効率,継続率の高い薬剤で, 主な副作用としては肝機能障害,血液障害,間質性肺炎,消化器障害などがある。MTXは血中の薬剤濃度に比例して副作用が発現するため, 腎機能が低下している人や,脱水時,高齢者,多量の飲酒は注意を要する。MTX服用により創治癒が遷延化したり易感染傾向があるため, 手術時には2~4週間休薬する。

メトトレキサート療法の副作用防止策
RAに対するMTXの作用機序のひとつが葉酸合成抑制作用によるものであるが, 葉酸合成が必要以上に抑制されると,上記の副作用が出現する。そのため,MTX投与後48時間後に葉酸を補充投与することによりRAに対する効果に影響することなく副作用の発現を抑えることができる。しかし,葉酸補充投与にてMTXによる総ての種類の副作用がなくなる訳ではなく, MTXによる間質性肺炎は葉酸補充療法では防ぐことができないといわれている。

【疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)の評価】
重大な副作用が少なく安全なDMARDとして考えられている,オーラノフィン(リドーラ;AF),アクタリット(オーグル,モーバー;ACT),ミゾリビン(ブレディニン;MXR),ロバンザリットNa(カルフェニール;CCA)は, 効果も弱く, 特にCCAは腎機能障害や胃腸障害が強く,効果も弱いため,最近ではほとんど使用されていない。金チオリンゴ酸Na(シオゾール;GST)は最も古いDMARDで使用経験も豊富なため早期例に使用されることが多いが, 有効例でも経過中に効果減弱(エスケープ)がみられることがある。D-ペニシラミン(メタルカプターゼ;DP)やブシラミン(リマチル;BU)はかなりの効果が期待されるが多くの副作用が出現し, GSTと同様にエスケープもみられる。サラゾスルファピリジン(SASP;アザルフィジン)は効果および安全性に優れたDMARDであるが投与初期にアレルギー反応がみられることが稀にある。また,エスケープが出現しても投与量を増量することにより再び有効になることがある(保健適応外)。MTXはDMARDの中では最も確実な効果を発揮する薬剤で, 投与量を増量することにより更なる効果が期待できる(保健適応外)。また,これらDMARDが無効の場合には,MTXとSASP,MTXとMZRの併用療法が有効とする報告もある。

【新しい免疫抑制剤】
タクロリムス水和物(プログラフ)
タクロリムスはリンパ球での抗原の細胞内伝達系を阻害することにより,炎症性サイトカインの産生を抑制することにより抗リウマチ作用を発揮する免疫抑制剤である。日本では臓器移植後の拒絶反応抑制目的,重症筋無力症に使用されており, RAに対しては2005年4月に承認された。また,アトピー性皮膚炎治療として外用薬が市販されている。RAに対する作用としては,他のDMARDに抵抗性の難治性RAに対してもその有効性が認められてる。主な副作用としては感染症,胃腸障害,腎機能障害,血糖の上昇などが報告されている。

【生物学的製剤】
 関節病変部位の炎症, 増殖、破壊などの病理組織学的な変化には, TNFα(腫瘍壊死因子α:tumor necrosis factor α), IL-6(interleukin-6), IL-1(intertleukin-1)などの炎症性サイトカインが中心的な役割を果すことが明らかとなってきており, 生物学的製剤による抗サイトカイン療法とは, これらの分子をターゲットとする。我国ではキメラ型抗TNFαモノクロナール抗体のインフリキキシマブ(レミケード)と可溶性TNF受容体-ヒトIgGFc融合蛋白(エタネルセプト)が使用可能である。

〜インフリキシマブ(レミケード)〜
 ヒトTNFαと特異的に結合するマウス/ヒトキメラ型の抗TNFαモノクロナール抗体製剤である。疼痛および腫脹関節数とCRP値が有意に改善し, 関節破壊の進展防止効果も確認されるなど, 高い臨床効果がみとめられている。
適応基準はMTX 6mg/週以上の最高用量を原則3ヶ月以上継続投与してもコントロール不良の患者で次の項目を満たす。
@疼痛関節6個以上A腫脹関節6個以上BCRP2.0mg/Dlまたは赤血球沈降速度(ESR)28mm/hr以上
 さらに日和見感染症の危険性が低い患者として次の項目も満たす。
 @末梢白血球数4000/mm3 以上A末梢リンパ球数1000/mm3 以上B血中β-グルカン陰性

 また, キメラ型抗体であることから異種蛋白に対する中和抗体の産生率を低下させる目的で, MTX経口6mg/週以上の併用が義務付けられている。
 副作用として問題となるのは結核菌の活動化であり, 結核罹患率の高い我国では注意が必要である。したがって, 全患者を対象として問診, ツベルクリン反応, 胸部レントゲン検査などのスクリーニングを実施する。結核の既往がある場合はイソニアジドなどの予防投与を行いながら投与する。

〜エタネルセプト(エンブレル)〜
 インフリキシマブと異なり100%ヒト由来アミノ酸配列のため, 中和抗体は産生されず, 単独投与もMTXとの併用投与も可能である。さらにいくつかの条件はあるものの自己注射に移行することができる。しかし, 結核を含む感染症には注意しなければならない。

【活動性評価と治療薬の効果判定】
ACRで提唱されたコアセットを用いて行うのが一般的である。圧痛、腫脹関節数が20%以上改善し, 同時に患者の疼痛評価, 医師および患者の総合評価, ADL, 赤沈やCRP値の3項目以上が20%以上改善したときに薬剤が有効であると考える。
活動性RAとは圧痛関節数>6ヶ所, 腫脹関節数>3ヶ所, で赤沈>30mm or CRP>1.0mg/dlがある場合をさすことが多い。

【引用文献】
神田博仁:慢性関節リウマチ.正しい薬物治療のために「病態生理と薬効薬理から処方せんを見る」骨・関節疾患―骨粗鬆症, 慢性関節リウマチ, 日本薬剤師研修センター, 2002, pp46-67
越智隆弘ほか:関節リウマチの診療マニュアルとEBMに基づく治療ガイドライン, 日本リウマチ財団, 2004
三森経世ほか:関節リウマチ. 薬局, 57(増刊号):523-531,2006

 

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